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永田康祐の個展「イート」in Mgallery


  • gallery αM 東京都千代田区東神田1丁目2−11 アガタ竹澤ビルB1F (マ⁠ップ)

約束の凝集 vol.2「イート」がMgallery(Mギャラリー)で開催

本展は新作の映像作品《Purée(ピュレ)》を中心に構成される。今回の展覧会においては、食べること、そしてまた「口」について探求した展示です。

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αMプロジェクト2020-2021「約束の凝集」第二回は永田康祐の個展「イート」。本展は新作の映像作品《Purée》を中心に構成される。ここには、家庭料理をテーマにした前作《Translation Zone》(2019)から続く、永田の一貫した関心を見ることができるだろう。実際、本展では《Translation Zone》のダイジェスト版《Digest (Translation Zone)》が発表され(Digestとは「消化」も意味する)、前作の延長に位置することが示されている。このように料理への強い関心を隠さない永田であるが、そこにはもうひとつ一貫した制作態度が根を張っている。むしろその根こそが、永田の作品を単なる趣味や(レクチャー形式の作品が陥りやすい)「興味深いエピソードの羅列」から救いだしている。
順に見ていこう。永田はこれまで、明晰に現実を「コピー&ペースト」しているように思える事象が、実際にはさまざまな「軋轢」や「混乱」をきたしていることに注目することで作品を制作してきている。特にその最初期においては、メディア装置の不透明性や不安定さを剥き出しにする技術をそのまま作品へと昇華させており、例えば《Postproduction》(2018)では、自動化した編集ツール「スポット修復ブラシツール」が「被写体」と「写真の中の被写体」を区別できないことを利用して画面内の地と図を無効化させている。

Macのデスクトップにあらかじめ表示されている山の写真の来歴をたどり、「デスクトップ背景」を「前景化」させる《Sierra》(2017)や、オーディオガイドを用いて展示空間で鑑賞する対象物の属性やエピソードの「地と図」を振動させる《Audio Guide》(2018)などからは、永田がそれまでに研究してきた「技術」の身体化を見てとることができる。それはまた、世界において縦横無尽に引かれている境界線が確定しておらず、むしろとても恣意的に、政治的に、暫定的に決定されていることへの自覚を強くする過程でもあっただろう。「地と図」に混乱し不明瞭なイメージを生成してしまうのは、「スポット修復ブラシツール」に限らない。私たち自身もまた常に混乱し、恣意的に決断し、奇妙な描線を引いて世界を切断している。ここにひとつの反省がある。

永田はその「反省」を無限に拡張させず、そこから折り返して制作へと向かう。この世界に引かれた線が恣意的であり不明瞭であると指摘することは、作品の結論では決してない。それはたんに前提である。問われているのは、それでもなお、どのような線を引きうるのかだ。《Translation Zone》において示されるのは、「翻訳」と「家庭料理」が不十分な条件下においても生活を営んでいこうとする人々の前向きな姿勢の結晶であるという事実だ。冒頭に書いた、永田の作品に根を張っている制作態度とは、この前向きさに他ならない。

新作《Purée》において、永田はタイトル通り「ピュレ」と呼ばれる料理を作りながら「主体」の範囲を考えようとしている。いくつかの時代をめぐり、ピュレが広まっていく背景にある歴史、労働、政治、現実を再編しながら、永田は主体の範囲を拡張できないかともがいている。口は身体の領域を踏み越えて存在しているのではないだろうか。そこでは、ある食事が胃に運ばれるまでの履歴をひたすらさかのぼり、際限なく拡張する倫理や責任を前に立ちすくむのではない理路が検討されている。後方ではなく、前方へと向けられた倫理。ピュレから主体の単位へ。そこには飛躍があるかもしれない。だがおそらくは、むしろ飛躍こそが要求されている。

長谷川新(インディペンデントキュレーター)

■開催概要

約束の凝集 vol.2 永田康祐|イート

期間:2020年11月27日(金)〜 2021年3月5日(金)[冬季休廊:12/20-1/8]

時間:13:00〜20:00 日月祝休

料金:入場無料

場所:gallery αM

住所:東京都千代田区東神田1丁目2−11 アガタ竹澤ビルB1F

▊永田康祐 ながた・こうすけ▊
1990年愛知県生まれ。社会制度やメディア技術、知覚システムといった人間が物事を認識する基礎となっている要素に着目し、あるものを他のものから区別するプロセスに伴う曖昧さについてあつかった作品を制作している。主な展覧会に『あいちトリエンナーレ2019:情の時代』(愛知県美術館、2019)、『オープンスペース2018:イン・トランジション』(NTTインターコミュニケーションセンター、2018)、『第10回恵比寿映像祭:インヴィジブル』(東京都写真美術館、2018)などがある。また、主なテキストとして「Photoshop以降の写真作品:「写真装置」のソフトウェアについて」(『インスタグラムと現代視覚文化論』所収、2018)など。